2025年3月現在、『人間を考える「旅に学ぶ」』と題する5回シリーズが、NHKカルチャーラジオで放送されています。
第2回の講師は、神奈川大学教授で観光学者の島川崇さんです。
旅学ゼミでは引き続き、同番組で拝聴した島川さんのお話をもとに、自由な語り合いをくりひろげました。
放送概要
神奈川大学教授で観光学者の島川崇さんは、持続可能な観光などをテーマに「観光学」の研究を長年にわたって続けてきました。現在も、自ら2か月に1回のペースで精神性の高い旅を続け、連載記事を執筆しています。今回は旅に学んだ先人「空海」の求道の旅を通して、偶然の出会いや予期せぬ出来事から学ぶことの大切さを考えます。また、沖縄旅行で出会った二人のバスガイドのガイディングに心を打たれたエピソードなども語ります。
(番組サイトより引用)
人間を考える「旅に学ぶ」」(2)
神奈川大学教授/観光学者 島川崇さん

NHKカルチャーラジオ(日曜カルチャー)
ラジオ第2 毎週日曜 午後8時
初回放送日:2025年3月9日
聴き逃し配信:2025年5月4日 午後9:00配信終了
https://www.nhk.jp/p/rs/GPV3P86GMP/episode/re/QMWVY17PNP/
『人間を考える「旅に学ぶ」』を語る会(2)
五郎:会社員。元・青年海外協力隊員。
halkof:当サイト運営者。ライター/旅学研究家。

人間を考える「旅に学ぶ」第2回は、空海1の紹介から始まりました。

島川さんは「旅を学ぶ」研究者であり教育者ですが、今回は「旅に学ぶ」人物の例として、空海の話が中心でしたね。空海といえば四国遍路が有名ですし、日本帰国後の布教の旅もありますが、中国への「留学」という旅に焦点を当てられていました。
島川さんご自身も、空海の足跡を訪ねる旅をされているそうなので、そのお話も聞きたいところでしたが。

そうですね、ご自身の旅については『旅行新聞』に連載されているとのことで、ここでは省略されたのでしょう。それにしても、空海愛が伝わってきました。

プロフィールを拝見すると愛媛のご出身ということで、お遍路は地元ですしね。

四国の方にとっては特別親しみがあるでしょうね。それに、空海って本当に人気ですよね! 実は私も好きなんです(笑)。大学の書道の先生が空海オタクで(笑)。授業中、全然筆を持たずに、永遠に空海の話をされるんです。空海がいかに尊い天才か、熱いオタク語り。影響されて、私も高野山へ行きましたよ。

高野山は昔行ったけど、奥之院までは行かなかったなあ……。

奥之院に行ってください! 奥之院が凄いんですから! あそこは異界ですよ。そしてぜひ宿坊に泊まって、朝の声明に参加してください。日本の神秘、真言密教の魅力に惹きこまれますよ。そもそも真言密教って法具もかっこいいし、手で印を結ぶのとか、奥義の伝授とか、アニメや漫画みたいなビジュアル系で、直感的に萌えるんですよね〜。


おっしゃるとおり、「偶然」といっても、実はその前に空海は語学などしっかり勉強を積んでいたので、恵果とは出会うべくして出会った、空海の努力が偶然を引き寄せたのではないか、とのご見解でした。つまり、旅で最大の効果を得るには、事前学習が大切なんですよ、と。

本当に何も考えず行くと、何も得ずに帰ってくるケースもありますからね。

島川さんご自身としても、沖縄でバスガイドさんが奏でた三線の音や、三陸の被災地で語られた言葉に、思いがけず心が震えたのは、実は偶然ではなく、それまでにも沖縄の文化や辛い歴史、被災地の研究に触れていたので、その知識が旅に響いたとのことでしたね。

たしかに、何かのエッセイで「ちょっと知識があるだけで旅が楽しくなる」と読んだことがあります。事前学習というつもりではなくても、自分の中に旅先のなんらかの知識が蓄えられていれば、ふつうの観光では行かないところに行くようにもなるでしょうしね。

五郎さんは、旅の事前学習をするほうですか? もともと読書家だから蓄積は多そうですが。

ちょっとした旅でそのために勉強することはありませんが、本で読んだことが旅のきっかけになることはありますよね。それから、青年海外協力隊の農業支援でアフリカに行ったときは、事前に課題や解決法を調べていましたよ。でも、行ってみると予想と全然違った(笑)。準備していた考えがひっくり返りました。そこからが一番面白かったんですけど。

そういう「予期せぬ逆転」も、準備していたからこそ出会えた面白さでしょうね。

旅を実りあるものにしようと思ったら、予習したほうがいいですよね。ただ、予習もどこまでするかは難しい。調べすぎると面白くなくなったりしますし。

ああ、かえって先入観にとらわれてしまったり。ラジオで挙げられていた、美術館では絵の解説を読むことでより深く理解できる、という例でもそうですが……。

なんなら絵を鑑賞するより、解説を読んでいるほうが長かったりしますからね。

だから私は、事前学習としてはさっと関連書などに目を通して、実際に現場に行って感じたことや気になったところを中心に、帰宅後に読み直したり調べたりする、という流れが多いです。

続いてラジオでは、団体旅行やパッケージツアーの利点を見直そうというお話もありましたね。現代では個人旅行が多くなったけれど、個人ではなかなか歴史や背景まで勉強していかない、それで旅に求めるものが「フォトジェニック」「映え」になっているのではないか。しかしガイドさんがいるツアーであれば、否が応にも知ることができる。そうした「背景を知る旅」に出会うには、もう一度団体旅行に立ち返るのもありではないか、というご提案でした。

私も利尻島に行ったとき、初日はガイドさん付きの観光バスに乗ったんですよ。イントロダクションとして、説明を受けながらひととおりの見どころをまわって。その後、バスで行かなかった場所を一人で訪ねたりしました。

そういう団体旅行と個人旅行のハイブリッド式は最強ですよね。まず、 ガイドさんって本当に教師だと思うんですよ! 誰も知り合いのいない土地で、何もわからないなかで、地域のことを遠慮なく教えてくれるんですから。

ガイドさんや語り部さんは、地元に詳しい専門家であり、知りたい情報について聞けるインフォーマントでもありますよね。博物館とかでもガイドツアーに参加するといいですもんね。

教師、先達として、ガイドさんのお仕事って、もっと社会的評価も認知も上がっていいのだと思います。

ネイチャーガイドは命を預かるので研修や資格もありますけど、通常のガイドではそうした制度とかあんまり聞かないかもしれませんね。

それで、ガイドさん自体は、個人旅行でも頼むことはできますが、団体旅行のほうが割安にはなります。そのほか団体旅行の良さとしては、参加者同士、旅で体験した興味関心を語り合えることもありますよね。

「クラブツーリズム」4とか、メンバー同士仲良くなってリピーターになったりする話はあるようです。一般的な観光ツアーだと趣味が合うとはかぎりませんけど、テーマツアーだと関係を築きやすいでしょうね。

そういう仲間がいれば、一人ではできないことができたり、感想や疑問をお互いに話し合うことでより深い学びになったりすると思うんです。その好例が、観文研の探検学校5で。

探検学校は、まさに行き着くとこまで行った究極のかたちですね!

まあ私の場合は、最初から最後までずっと集団行動はきつい(笑)。団体旅行は部分的に組み合わせるのが良いです。

ツアーなら現地発着とかですね。
- 空海(774-835)真言宗開祖。讃岐生まれ。803年、遣唐使の留学僧として中国に渡る。恵果から真言密教を伝授され、806年帰国。高野山に金剛峯寺を開創。弘法大師。 ↩︎
- 恵果(746-806)中国唐代の密教僧。長安の青龍寺で空海に密教のすべてを授ける。 ↩︎
- セレンディピティ(serendipity):思いがけない幸運。予想外の発見。素敵な偶然。イギリスの小説家ウォルポールによる1754年の造語。セレンディップ(現スリランカ)を描いた童話に由来する。 ↩︎
- クラブツーリズム:テーマ旅行などのツアーや会員同士の交流を促進している旅行会社。近畿日本ツーリストグループの一社。 ↩︎
- AMKAS(アムカス)探検学校:日本観光文化研究所で1971〜76年に開催された海外ツアー。事前学習を共有し、現地行動は自由、リーダーが提案する行動プランへの参加も可能。帰国後には報告会が開かれた。詳細は『宮本常一の旅学 観文研の旅人たち』参照。 ↩︎
レビューシート
五郎:
旅の前にどの程度情報を仕入れておいた方が良いか、という点については意見の分かれるところだと思いますが、今回は予習の重要性が強調されていました。
併せて述べられた、リピートの重要性には復習も含まれるのでしょう。
解説者としてのガイドの重要性、カウンターパートやインフォーマントや語り部との出会い、そしてリピートを通じて関係構築すること等は、「旅学」に限らず研究のフィールドへのアプローチとしても参考になると思います。
私自身は、旅の予習よりも、終わってから後追いで調べる事の方が多いので、効率は悪いです。
旅の経験を積む事こそが、最大の旅の準備なのかも知れません。
一方、旅の事前学習以前にインプットしていた知識等が現場で役に立つ事もありますし、「聖地巡礼」等は、知識を得た事が旅立ちのきっかけになる例だと思います。
また、自分なりの旅のよすが、旅のスタイルやこだわり、独自の切り口や世界の見方、専門性等を持つことで、自分にしか出来ない、無二の旅をする事が出来る様になるのではないかと思います。
halkof:
お話から「事前学習の大切さ」と「ガイド付き団体旅行の良さの見直し」を要点として受け取りました。やはり、できれば予習をしたほうが、旅の期待も学びも深まると私自身も感じています。
旅先でのガイドさんは、先生です。「インタープリター(通訳者)」とも呼ぶように、まるで景色の暗号を解かれるごとく、一人では見えないものが見えてくることがあります。ぜひ地元のガイドさんに、通りいっぺんの棒読みではなく、愛と誇りのあるご教示をいただきたい。
これが団体となると、本格的なスタディツアーですね。
また、空海については「運がいい」という紹介がありました。船が無事に着いたり、タイミングよく帰国できたりという偶然に恵まれたとのことですが、不思議なことに、私がこれまで会った旅人たちからも「ラッキーだった」という言葉がよく聞かれるのです。これは旅好きの性質を表すキーワードのひとつではないでしょうか。
なお、対談内で私は真言宗萌えを語っておりますが、特定の宗教の信者ではございません。
旅学ゼミ、今後も不定期開催です!