古民家再生ものがたり「よもぎゲストハウス」〈3〉ゲストハウスのつくりかた

常滑風景 インテリア紀行

愛知県・常滑(とこなめ)の古民家宿「よもぎゲストハウス」のお話、今回は、Shotaさんが常滑に移住して開業するまでの経緯を対談形式でまとめました。古民家を活用したい方、ゲストハウスを始めたい方、移住検討中の方、ご参考にどうぞ!(取材:2022年10月・12月)

これまでの経歴

「よもぎゲストハウス」の始まりとは

――ゲストハウスの開業以前は何をされていたのでしょうか?

Shotaさん:僕は工業系の高校を卒業してから、フォークリフト整備の仕事をしていました。そこで7年働いて辞めて、オーストラリアのワーキングホリデーに行ったんです。サーフィンが好きなので、友達から話を聞いて、初めての外国でも行きやすそうだなと思って。

オーストラリアでは語学学校に3ヶ月通ったあと、バックパッカーズ(ゲストハウス)にヘルパーとして住み込みんで、サーフィンをしたり、農場で働いたりもしながら、いろんな国から来た人たちとふれあって1年半を過ごしました。

ワーホリの後はバリで2ヶ月サーフィンをして、東南アジアを旅してから帰りました。帰国後に仕事を探してネットで見つけたのが、京都のゲストハウス「らんたん」です。ここのオーナーさんについて書かれていたブログがなんとなく面白くて。「よし、行ってみよう」とさっそく京都に出向いて、オーナーさんに会っていきなり、「ここで働かせてください!」って(笑)。まあまず一回泊まっていき、と言われてその日は宿泊して帰ったんですが(笑)。再度連絡して、無事働けることになりました。

「らんたん」では運営管理もまかされるようになり、1年間働きました。妻のエリザと出会ったのも「らんたん」です。エリザはスイスのアートスクールで陶芸を専攻して、常滑の陶芸家さんのところでインターンをした経験がありました。二回目の来日のとき、旅行で京都に来て「らんたん」に滞在していて、彼女も一緒に働くようになりました。

それから結婚して、移住したスイスで娘が二人生まれて。スイスに3年、日本に3年住んでみようと話していたので、上の子が3歳、下の子が3ヶ月のとき、日本に帰国したんです。

穏やかながら、熱いときは熱いShotaさん

古民家ゲストハウスの創業

――どうして常滑で古民家ゲストハウスを開くことになったのでしょうか?

Shotaさん:僕の実家は名古屋なんですけど、名古屋で暮らすという選択肢はなかった。都会すぎて、子育てには向いてないと思って。で、実家に近くてエリザも縁のある常滑で暮らすことにしました。

帰国して仕事がないと困るので、最初はオーストラリアで知り合った友達の大工さん(マツダさん)のところで、見習いとして働かせてもらったんですよ。職場は愛知県岡崎市です。でも常滑から岡崎まで交通費もかかるから、どうにかしなくちゃいけなくて。じゃあ常滑でゲストハウスをしようと。

物件は古民家だけにこだわっていたわけではないんですが、妻と子ども二人がいるので一戸建てがよくて、古民家だったら安く借りられるかなと思って。ゲストハウスにするか、自宅にするか、家族も同居するゲストハウスにするか……いろんな可能性を視野に、家探しをしました。賃貸か購入かも特に決めず。

名古屋まで通勤圏ながら懐かしさの残る常滑

――「よもぎゲストハウス」は、大家さんから開業資金を提供してもらうという珍しいケースですよね。古民家を使いたい人にとっても、古民家を誰かに使ってもらいたい人にとっても、参考になりそうです。

Shotaさん:そうですね。古民家を再生するにも、電気関係や水まわりとかどうしても修繕費がかかるから、資金の問題は大きいです。一般的に大家さんとしては、お金をかけて改修しても、古い家の賃貸家賃では費用の回収が難しい。僕らの場合はゲストハウスという事業売上の見込みもあったから、協力してもらえたのかもしれません。ただ、大家さんには「少なくとも5年くらいはやってね」とはサラッと言われましたけど、コロナ禍での開業だし、5年じゃ回収はできないよね……まあ、理解のある大家さんと出会うのが一番じゃないかな。

――将来的に投資分が返ってきて、ビジネスとして成り立つようなら、興味を持つ大家さんが増えるかもしれませんね。古民家はローンが組みづらいし、自分でお金を貯めるしかないと思っていたんですけど、投資家や実業家の方と組むのはいい案ですね。

Shotaさん:そうポジティブに考えてくれる大家さんがいるかどうかですね。使っていない家と資金があるところに、資金はないけどやりたいことがある人がやってきたとき、それを良しとするかどうか。

――金銭的利益だけじゃなくて、社会貢献などにも意識のある大家さんが鍵になりそうですね。古民家の所有者は高齢の方が多いですし、なじみのないことには戸惑われるかもしれません。そこでまず、経営者マインドのある地元の実業家が買い取って、使いたい人との間に一旦入る。そんなふうに古民家再生事業をする仕組みができるといいですね。

Shotaさん:古民家を使いたい人も、持ち主を口説くだけの熱意は必要でしょうね。やりたいことがあるっていわれたほうも、二つ返事はできないよね。ある程度数字を出されて、納得のいく説明をしてもらって、心を動かされて初めてやる気が起きるかもしれないけど。そこに行き着くまではまあ、簡単ではないかな(笑)。

情熱をもってゲストハウス開業の意志を伝えた

――大家さんには、事業計画などを説明されたのですか?

Shotaさん:したした。部屋の数、泊まれる人数、一人当たりの単価、100%稼働したときの月の売上、最低限で何割稼働すれば成り立つのか、数字を出して。「らんたん」での経験から必要経費は見えていたので、計算はすっとできました。ゲストハウスって最初に設備を整えてしまえば、ランニングコストはそこまでかからないんですよ。水道光熱費と消耗品と自分の人件費だけだから。

実は大家さんの会社の社員になって立ち上げるという案もあったけど、やっぱり僕は自分で、個人事業主としてやりたかったんです。社員になれば待遇は安定するんでしょうけど、やっぱりオーナーとして、自分のゲストハウスがやりたかった。そこで話し合ったところ、社員ではなく、出資者と運営者というかたちでの打開策を提示していただけました。
だから、僕は物件のオーナーではないけど、ゲストハウスのオーナーではあります。開業したときはコロナ禍だったのでお客さんが来られなかったんですけど、その間に僕は、近くのコストコの夜勤で出稼ぎを始めました。それが経済的には助かって、そういう判断も自分で選べるのがいいですね。

大家さんとは月1回くらい会っています。一緒にがんばりましょうね、みたいなスタンスで、ほんとにいい人(笑)。こういう経営者になるべきなんだな、と思う。その人のためにも売上つくりたいな、って自然と思える。自由にさせてもらえて、仕事がしやすいし、モチベーションも上がる。自由にって、なかなかできることじゃないよね。

「よもぎゲストハウス」の誕生をまとめたフォトブック

ご近所との関わり

――他所から移住すると地元の方たちとの関係が心配になりそうですが、ご近所付き合いなどはいかがですか?

Shotaさん:ああ、そこ一番かな。地元の人たちへのリスペクトは、絶対的に必要だと思う。僕はそこが一番だと思ってる。僕も近所の人たちとうまくやっていきたくて、始めに挨拶まわりをしたし、会えば世間話もします。ゲストハウスという性質上、貸し切りのときとか近所に迷惑がかかるといやだから、その都度「大丈夫でしたか?」って声もかけます。何かあったらすぐ連絡してくださいとも伝えてるし。近所の人たちに迷惑かかるのが一番!いやですね。もう何もできなくなっちゃいます。

引っ越しの挨拶は絶対したほうがいい。逆の立場だったら、どんな人が引っ越してきたんだろうっていうのは気になるじゃん。ましてやスイス人の妻でしょ。外国人が越してきたってびっくりされるのもいやだから。そういうご近所付き合いが苦にならないのは、小さい頃から僕のおかんが近所付き合いを楽しんでる人っていう影響もあるかも。

おかげさまで、近所の方々は仲良くしてくれています。今は、近くのおじいちゃんがお散歩のとき、うちの庭で日向ぼっこして帰っていきますよ。腰を痛めているおばあちゃんからは、スーパーで塩2kg買ってきてくれって頼まれて、持っていくと畑でとれた野菜くれたり。裏手には以前アメリカに住んでいたというお父さんがいて、うちのエリザとも英語で喋ってくれるし、ゲストハウスも応援してくれて。お向かいの娘さんは海外留学を経験していて、外国人のお客さんが来たら遊びに来たいって言ってくれてるし。お隣のお子さんがうちの子と遊んでくれたり。まわりに恵まれて、めちゃくちゃ助かってます!(笑)

やっぱり古民家を改修して楽しく過ごせるかどうかは、建物自体のポテンシャルもあるけど、最終的にはまわりの人とか、そこに行き着くまでに知り合う人とかが、大きいんじゃないかなあ。

ご近所さんも憩われるお庭

ゲストハウス運営の実際

――ゲストハウスでの日々のお仕事はいかがですか?

Shotaさん:やることがたくさんあって忙しいですよ。掃除は2〜3時間、シーツの洗濯から植物の水やりも。
うちでは説明を張り紙とかにしないで、お客さんが来るたび毎回自分で直接話すようにしてるんです。その人によって、必要な説明が違ったり、言い方も少しずつ変わったり。一人ひとりに伝わるようにしたいから。ホテルじゃないんでね。こういうゲストハウスだから。

建物のデザインがかっこいいのもいいけれど、僕にとってのゲストハウスはオーナーありきだと思ってるんです。まあ大手企業がチェーン展開してるようなゲストハウスにも、それはまた違う味があるとは思うけど。

それから、宿でのコミュニティがもうできあがっちゃってて、知り合い同士で盛り上がって、初めての人が入りづらくなるのも、うちが求めるのとは違うかもなあ。内輪では楽しいかもしれないけど、初見の人が壁を感じてしまうのはねえ。全部ちょうどいい距離を保つのがいい。ニュートラルが一番いいですね。

Shotaさん定位置のレセプション

――「よもぎゲストハウス」という名前には何か由来があるのでしょうか?

Shotaさん:ゲストハウスの名前を決めるときにいろいろ候補を出して、一番しっくりきたんですよ。まず、妻はスイスから来て日本の植物にも興味があるし、僕自身も「和ハーブ検定」を取っていたんです。そのとき、よもぎは日本の代表的なハーブとして頭に残っていました。それで、外国人のゲストが来ることを予想していたので、音がかわいくて発音しやすいし、話題にもなるだろうということで。日本人にとっては親しみ深い植物だし、古民家にもマッチするでしょ? よもぎゲストハウスに泊まることで、道端のハーブにも目を向けてもらえるようになったら面白いかなって。

よもぎは、「四方三里に医者いらず」といわれるくらいの万能薬で、お灸もよもぎを使ってるんですよ。三里というと12キロメートル、人が一日で歩けるくらいの距離です。昔はその範囲にあるものでやりくりして、体調管理してたんですね。日本人の体には遺伝子レベルで合うともいわれています。日本に古くからあるそういう良きものを使っていこう、外から入ってくるものだけでなく、もともと持っているものに目を向けようというのは、古民家のコンセプトにも合うと思いました。

それから、後付けなんですけど、よもぎという漢字は「蓬」、草かんむりに「逢う」という字だから、ちょうどいいかなと(笑)。(※このインタビュー中、一緒に聞いていた宿泊者のタクミさんが、「よもぎを水中眼鏡に擦りつけると水の中で曇らない」という知恵を教えてくれました。)あ、じゃあその水中眼鏡の話も入れておいてください!(笑)

草かんむりに「逢う」で「よもぎ」
和ハーブ図鑑がありました

「中間」にある常滑の魅力

――Shotaさんにとって常滑はどんなところですか?

Shotaさん:常滑は、以前は名古屋から見ると知多半島への通過点というイメージで、陶芸に興味がある人だけが来るようなところでした。それがコロナ禍もあって、近場で遊べるところとしてここ数年盛り上がってきたんじゃないかな。古民家ゲストハウスもほかに二軒ほど出来ましたよ。

知多半島は、南へ行くとナチュラリストやオルナタティブな方向に興味がある人たちが多い印象ですね。北へ行くと名古屋の都会がある。常滑はその中間で、両方に行けるところだと思います。どちらかに振り切れたらかっこいいけど、自分にはできないし、バランスをとっていきたいから、常滑がちょうどいいんですね。

休日は散策や陶芸体験を楽しむ人々でにぎわう常滑
一歩入れば昔の家並み
路地歩きが楽しい「やきもの散歩道」

インタビュー後記

「タブーはないと思ってる」というShotaさんは、何でも正直に話してくださって、肩の力が抜けて自然体でした。それが無理のない運営やご近所付き合いの秘訣なのかもしれません。
具体的なお話の数々、とても勉強になりました! ありがとうございました!!

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