日本最古の窯として知られる焼き物の町、愛知県・常滑(とこなめ)市。そんな常滑を訪ねた際に私が泊まったのが、「よもぎゲストハウス」でした。窯元が集まる「やきもの散歩道」にたたずむ、築100年程と思しき古民家を改修したお宿です。入ってみると、堂々たる梁や黒光りする柱を活かしつつ、細かいデザインにまで遊び心あふれる空間に心踊りました。オーナーさんによると、お友達の大工さんと二人、こつこつ自力でリノベーションしたとのこと。お話してみると気さくで物腰柔らかなオーナーのShotaさん、古民家再生への道のりを惜しみなく教えていただけそうなお人柄ではありませんか。これは! 全国の古民家活用を志す人たちの役に立つに違いない! と、後日あらためて取材をお願いし、家探しや改修のコツをじっくり伺ってきました。(取材:2022年10月・12月)
元の味わいを活かしながら居心地よく
名古屋出身のShotaさんは、ゲストハウスをともに営むスイス出身の妻・Elisa(エリザ)さん、幼い娘さん2人との4人家族。ゲストハウスを開くために常滑で古民家を見つけ、2020年に開業しました。空き家だったこの建物は、大工のお友達マツダさんとShotaさんで、半年がかりで改修したとのこと。Shotaさんもしばらく大工の見習いをしていたので、工具の使い方などは知っていたものの、どんなふうに改修するかは現場で考えながら進めていったそうです。
まずは、素敵に仕上げられた館内の全容をご覧ください。
玄関と吹き抜け
一階の客室
一階の洗面所
キッチン
二階の客室
二階の洗面所
お庭
家の歴史と思い出を継ぐ
館内中を丁寧に案内していただいたところ、さすがプロの大工さんの仕事、窓やトイレを新設したり、階段を造作したり、素人のDIYとは次元が違う大幅なリノベーションが施されていました。また、電気工事や水道工事は専門の業者さんが入っています。それにしてもほぼ二人で、半年で、ここまでの改修ができるとは。各地に眠る古民家の活用法が広がりそうです。手入れのポイントを伺いました。
Q:古民家改修にあたり、コンセプトはありましたか?
A:Shotaさん(以下同):僕は古民家改修で大事にしていることがあるんです。もしも以前住んでいた人が訪ねてきたら、当時の面影が残っていて嬉しくなるような改修が好きなんですよ。この家はもともと家族連れが暮らしていたようで、キッチンの柱には子どもの身長の記録の跡があって。それは消さずに残しています。陶芸家さんが住んでいたこともあるそうで、陶芸の作業をされていた部分の床板の色が剥げちゃっているんですけど、それもそのままにしてあります。塗り直そうかと思っていたんですけど、陶芸家さんの仕事の跡だという話を聞いて、それなら残そうと。
建物内を全部壊してスケルトン(骨組みだけの状態)にするほうが簡単だし、安い場合もあるんですけどね。でも家の歴史として、あんな人も住んだ、こんな人も住んだという記憶をゼロにしたくなくて。自分自身が家だとしたら、あの傷はあの人が生活してたしるしだなとか、そういう思い出があったほうが、家としても嬉しいと思う。家の気持ちになってみるとね。100年の歴史がある古民家ですから。この土壁だって100年前の土だし、100年前の大工さんの技術も詰まってる。現代の大工さんと一緒に改修していると、今では数えるほどの大工さんしかできない技術が詰まってるのがわかるから、壊すのがもったいなくなります。表には見えないそういうところも大切だと感じるんです。
まあ、お風呂でも古いし、自分の住居ならともかく、宿としてはユニットバスのほうがいいかなと思うこともありますけどね。タイルだと足が冷たいから。でも、今では珍しいタイルだからやっぱりどうしても残したくて。
このごろ古民家の改修が流行ってきた傾向があって、それ自体はすごくいいことだと思っています。ただ、全部変えるのがあたりまえになってしまうと、家の持ち主さんは人の手に渡したくなくなってしまうんじゃないかな? あまりに変わりすぎてしまっていると、前の住人としては寂しいでしょうからね。空き家が市場に出まわらないのはそういう理由もあるのかもしれません。たとえば自分の実家だとしたら、使い道がなくても、思い出はある。その思い出を汲んで使ってくれる人のほうがいいだろうと、僕は思う。いろんな事情があるから一概には言えませんけど。
Q:改修作業で苦労したことはありますか?
A:壁塗りが一番大変でしたね! 漆喰塗りです。ローラーで塗れるタイプの漆喰なんですけど、古民家は梁がまっすぐじゃないから、マスキングする時点で大変。マスキングして、シーラーを塗って、漆喰の上塗りを2回。いやあ、もう二度とやりたくないです(笑)。
※1 ローラーで塗れるタイプの漆喰:コテではなくローラーでも塗れる練り済み漆喰。例↓
※2 マスキング:塗装する場所以外が汚れないように、マスキングテープ(左)やマスカー(右)などで保護=養生すること。例↓
※3 シーラー:アク止め剤。木材や土壁の上から漆喰を塗るとアクが浮いてきてしまうため、下地にアク止めを塗っておく。例↓
あと、お風呂場の浴槽は取り外したんですけど、今思えば取らなくてもよかったかなあ。取った跡をセメントで穴埋めする作業がけっこう大変だったから。排水のために勾配をつけなくてはいけなくて。その部分は業者さんに頼みました。
洗面所のタイル貼りも、途中でめんどくさくなっちゃって(笑)。洗面台とタイルの枠は大工さんに寸法を合わせて造ってもらって、タイルは自分で貼りました。
二階のドミトリー部分は、最初は床も窓もなくて屋根と土壁だけだったし、とにかく煤(すす)だらけ、真っ黒で真っ暗! 難儀しましたねえ。壁はセメントで固めて、セメントの上から漆喰を塗りました。梁と壁の間はどうしても隙間ができてしまうので、ロープを(巾木のように)張り渡して埋めています。苦肉の策ですよ(笑)。
Q:古民家は寒いと聞きますが、過ごしてみていかがですか?
A:冬は寒いです。古民家の床下は土が多いし、建物には隙間が多いし。畳はまだいいけど、板張りは足が冷たいですよ。玄関と階段・居間の間は扉をすべて外したんですけど、寒いから外さなくても良かったかなとも思います。外から室内が見えすぎるしね。
古民家を改修するなら絶対にやったほうがいいことが、床下の土間打ちですね。セメントを流して固めることです。よもぎゲストハウスではやらなかったけど、土から上がってくる湿気と寒さの対策に、やれば良かったと思ってます。セメントを流すのはスピード命だから人手が必要だけど、DIYでもやれますよ。見えない部分だからきれいに仕上げなくていいしね。
壁に断熱材を入れるのは、良し悪しがあると聞きます。外側の土壁と内側の壁の間に断熱材を入れると、湿気が出て柱が傷むこともあるとか。よもぎゲストハウスで断熱材を入れているのは、二階ドミトリーの天井、二階トイレの天井と壁です。夏は二階がサウナのように暑いので。もともとは、二階は居住空間ではなく、屋根裏として断熱機能を果たしていたようですね。だから夏も一階は涼しいですよ。以前、陶芸家さんが住んでいたときは、二階は使っていなかったようです。
Q:今後手を加えたい箇所はありますか?
A:希望としては、庭で朝ごはんを出したいです。ピザ窯の土台も造ってあるので、テラスにして飲食できるようにしたいですね。レンタサイクルも準備中です。ゲストハウスをやっていて、そういう計画を全部自分で考えられるのが楽しいですね!
ほかに、シャワールームを塗装し直したり、すのこを取り替えたり、メンテナンスもしていくそう。これからもどんどん変化していきそうなよもぎゲストハウスです。
次回は、家を彩るインテリアや雑貨、アートの紹介と、古民家物件の探し方をお伝えします!