ココナッツミルクで炊いたもち米や、煮豆、カンナで削ったふわふわの氷に、コンデンスミルク……カンボジアの市場の片隅でいただいた、絶品かき氷です。
灼けつくような陽を浴びた後、冷たい甘味の美味しいことといったら!
カンボジア料理、といっても日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、カンボジアは、実はすてきなスイーツの宝庫なんですね。
古いフィルム写真のアルバムから、15年位前のカンボジア屋台スイーツをお届けします。
訪ねたのはカンボジア北西部にある町、シェムリアップ。世界遺産アンコールワットで有名なこの町は、多くの外国人観光客で賑わい、近年お洒落なカフェやホテルがどんどん開業しています。それでも2000年代の始め頃には、地元の素朴な生活がすぐそばに感じられました。
町の中心部には、毎日の生活を支える新鮮な肉や野菜が積み上がる市場があります。この一角で出会ったのが、カンボジアンスイーツの屋台。たくさんのステンレスのボウルに、色とりどりの「何か」が入っていました。
最初は一体何だかさっぱり分かりませんでしたが、しばらく見ていると、ふらりと立ち寄ったおじさんがちょい、ちょい、とボウルをいくつか指さします。すると女性店主がおもむろにうなずき、目にも止まらぬ素早さでボウルの中味を小さなお椀にひょいひょいっとすくい入れていきます。わんこそば屋も驚きの手際。
それから、木のカンナで氷をささっと削り、お椀に追加。コンデンスミルクをかけて差し出すと、おじさんはおもむろに受けとって、小さな椅子に腰かけ、黙って瞑想するようにすすり始めます。
ここまでわずか数秒。
お客さんが来るたび、まるで木琴を叩くようなリズムであちこちのボウルからひょいひょいひょいひょい、すくっては入れ、すくっては入れ。見事な職人技でした。
気になって各ボウルを覗き込むと正体は、豆や、バナナのココナッツミルク煮、里芋のようなねっとりした芋、タピオカ、トウモロコシなど。どうやらこれは甘いものらしいことと、注文の仕方を理解して、私も指さしで頼んでみました。
削りたての、粉雪のようにはかない氷。
もち米にコンデンスミルクのゴールデンコンビ。
暑くって、ほこりっぽくて、くたくたに歩き疲れて、そんなときに、あまーくて冷たいかき氷。
ああ……神々の食物です。
ちょうど食べ終わったころに、店主の女性はニッコリ笑って冷たいお茶を淹れてくださったのでした。私は誓いました、また来よう、と。
実際、私はこのかき氷のために十日間ほどシェムリアップに居座り、アンコールワットもそっちのけで、3食屋台に通ったのです。かき氷に感動したのは、生まれて初めてでした。もち米と氷、という意外性にすっかりときめいてしまったのです。帰国後も惚れた氷のことが忘れられませんでした。将来はカンボジアンスイーツ屋さんをやるんだと夢見るほどでした。実は今でも本気で思っています。
甘味屋台は市場内に二、三軒ありました。いずれも店主は女性。日本だとスイーツ好きは女性というイメージがありそうですが、見たかぎりでは、お客さんはむしろ男性が多いようでした。景気づけにクイッと一杯、という風情です。暑くてバテたときに甘いものは、やっぱりほっとして元気出ますよね。
こちらはタピオカのお団子だそう。もっちりして美味しそうでしょう?
カンボジアンスイーツの女王、ココナッツミルクを注いで蒸したかぼちゃプリンもありました。なんといってもかぼちゃ丸ごとの姿が魅力。こちらのかぼちゃは、やや水っぽい瓜系の食感でした。北海道のほくほく栗かぼちゃで作ったらさらに合いそうです。
シェムリアップの町では市場のほか、街道沿いにも日暮れ頃から点々と屋台が現れていました。夕闇にまぎれてぽつ、ぽつ、と明かりを灯す小さな屋台は、どこか妖しげにも見えたものです。それらも甘味の屋台のようでした。今も健在なのでしょうか。
いつかきっと、もう一度行って、あの甘味の作り方を教えてもらいたいと思っています。
日本でも(カンボジアでも?)クリームやフルーツをふんだんに使った高級かき氷のお店も増えてきましたが、私のかき氷の原点は、こんな屋台のかき氷なのです。
熱帯の午下がりから、甘いひとやすみをお届けしました。
えびすかぼちゃを使ったかぼちゃプリンを発見。↓
こちらは中味もかぼちゃのプリンなんですね。
なかなかいいお値段ですが……カンボジアに行くよりは安い、かな?笑